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【うおっ、止せ、なっ? 話せばわかる……ちょ、ギブ、ギブギブギブっ】
「問答無用よ! プライベートまで幽霊付きなんて冗談じゃないっ、出ーてーいーけーっ」
【参った、参ったから! ったく、見掛けに寄らず凶暴なのな……話は解ったよ。でもさ、そしたら俺の行き場がなくなっちまうだろう?】
締め付けられていた喉許を摩りながら、眉を八の字に下げる彗は困ったように――本当に途方に暮れた、頼りない声音と共に苦笑を洩らす。
「居場所……そっか、その手があった!」
【なんだ?】
それは、実に簡単なことであった。
彼が生霊だというのなら、行方不明の肉体を探し出せばいいのだ。
そうすれば彗は身体に戻れる上に、こちらは一人暮らしを満喫できる。
双方共にメリットがある、申し分ない計画ではないだろうか。
「ねえ。名前と歳以外、本当になにも覚えていないのよね? じゃあ、交換条件、飲んでみない?」
毅然と、有無を言わせない気迫を以て天音は云った。
「アンタの肉体(カラダ)を捜してあげる。で、見つかるまでだけど、此処にいてもいいわ」
【ええっ、俺の身体を捜してくれんのか!? 本当か!?】
「うん、その方がアンタにも都合がいいでしょ」
【まぁそうだよな、こうやって気も確かだし…ホントはまだ死んでねぇのかも。そんじゃ天音…だっけか、それまで宜しくな】
にっかりと人好きのする懐っこい笑顔は、尖っていた天音の毒気をすっかり踏み砕いてしまった。
半年間綿密に練っていた一人暮らし計画は、全く幽霊らしくない青い髪の幽霊男・彗のお蔭で想像の藻屑と化すことになる。
しかし、この出会いから天音の新たな波乱を含んだ日常が始まりを告げたのだった。
開幕のベルは鳴った。
さぁ諸君、喝采を。
色鮮やかな世界の中で次第に覚醒していく、彼女の華麗なる非日常が幕を開ける!
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