0人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、お蔭で一つ決定的な事に気がついた。
彼が生気の塊、生霊であるということだ。
おそらく、何らかの困難な状況によって、肉体から魂だけが剥離してしまっている状態なのだろう。
「ちょっと、お化けって寝ないんじゃなかったっけ?!」
揺すってみるが返事はなく、おまけに業とらしく鼾までかいているときた。
飽くまで、離れる気はないらしい。
初対面から、えらく肝の太い生霊である。
しかし、だ!
幽霊物件とはいえ、折角の一人暮らしを幽霊なんぞに邪魔されては堪ったものではない。
幽霊なんて仕事以外で見るのもイヤだし、鬱陶しい。
天音は、狸寝入りをして背中に懐いている彗を握り拳で思いきり殴り飛ばした。
【あべしッ、がっ、げふぅっ!?】
埃を巻きあげて、クローゼットに突っ込んだ彗を見遣る天音の目は怒りに青く燃えている。
【……つーか、なんで触れるん?】
「いちおう、霊能者の娘だからじゃないの? 念じたら殴れちゃった」
【あ、はは……俺、急用思い出したっ】
語尾にハートマークを付けてドス黒い笑みを浮かべた天音に、顔面蒼白になった彗は慌てて壁に逃げ込むが、敢え無く引きずり出されてしまう。
「なァにが急用よ…強制成仏させるわよ? この変態幽霊が…!」
悸く握り拳を向けられた彗は、慌てて弁明を計るのだが効果はなし。
猪突猛進、怒った天音の勢いは止まらない。
最初のコメントを投稿しよう!