第1話 蒼き幽魂

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 その建物を見た瞬間、私はどこかから視線を感じた気がして、引越し先であるアパートをもう一度見上げた。  突然だが、私は幽霊の類いが一等嫌いだ。    しかし何の因果か、天は人が最も嫌っている『霊感』を私に授けた。  つまり私には、必然的に幽霊と言われるものが見えてしまうという訳だ。  そんなもの、見ても得なこともなければ、厄介事しか起きた試しがない。  普段はスイッチを切っているが、いちおう身の安全のために『あ、見てるな』程度くらいには察知できるよう訓練はしてある。     けれど、今の『視線』はやけにハッキリと感じられた。 (なんだ、今…確かに“何か”がこっちを見ていた。害意は感じないが、ここの住人だろうか…)  メゾンハイツ2号棟。  それが今、現在進行形で目の前に聳え立つ新居の名である。  やや薄汚れた白壁と、陽光を反射して毒々しく輝く青い屋根。  おまけに、見窄らしい外見に対して爽やかなネーミングが似合っていないこの残念具合はどうだ。  思わず、溜息が出ても仕方がないだろう。  だが悲しいことに、ここの物件がこつこつとバイトで貯めてきた今の自分の財産で賄える許容範囲なのだ。  なので我儘は言えない。  たとえ、そこに“先住霊”が居たとしても。 「ここよね、間違いなく…」    見上げる体勢の所為か、肩にかけていたショルダーの紐がずるりと滑り落ちる。  私の名は、藤咲天音。23歳。  都内にしては格安の物件を見つけ、思わず飛びついてしまったことを、現物を見て絶賛後悔中である。    写真で見た物件は築15年という割かし新しめで、ファミリー型のアパルトメントだったのに。  なんだ、このおんぼろアパートは! 
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