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「寂しいわけ…ないんだ」
胸苦しい息を吐き出して、天音はベランダのサッシ窓を静かに閉めた。
叔父一家の件に関しては、特筆して憎いという訳ではない。
ただ、そうして生きていくしかないのだと教わったと思えばいいだけだ。
「問題は、この荷物ねえ。さて、本当に暗くなる前に部屋の中を片付けちゃわなきゃ」
このままではいつまでも埒が空かないので、積まれた荷物を解きにかかろうと振り向いた瞬間。
硝子か何かが割れるような、鋭利な大音響が薄暗い部屋い響き渡った。
「な、なんの音…?」
音は部屋の奥から。
天音は、薄闇が蟠る台所を恐る恐る奥へと進んで行く。
一足進む毎に空気が重冷たく感じるのは…果たして気の所為だろうか?
闇に目を凝らすと、やがて一際暗い四畳半の部屋が、まるで待っていたかのようにぽっかりと口を空けているのが見えた。
「音…ここから、だよね?」
一歩踏み出した足裏に冷たく平らな感覚を感じ、同時にここが畳ではなく洋間だということに気付く。
(うわ……これは、ちょっと嫌な感じだな…)
部屋を引き払う時に荷物を処理しなかったのか、はたまた出来なかったのかは定かではない。
饐えたような、埃臭い匂いが強く鼻を刺激する。
薄く開いたクローゼットからはみ出ている衣類は、多分Tシャツかなにかだろう。
生活感を色濃く残したまま、埃を被った荷物が放置されている。
「うわー……」
職業柄『こういうもの』を見るのは初めてではない。
何度見ても、嫌になる光景だ。
照明を点けようとして、壁に沿ってスイッチを探るが―――見つからない。
「あ、れ?」
闇雲に探していると、ふつ…と突然蛍光灯に明りが点った。
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