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「スイッチ、押してないのに…」
目が照明の無機質な明かりに慣れた頃、天音は足許に散らばる細かな硝子片に気がついた。
そして破片を辿った先に、フレームの中央に大きな皹が入った埃まみれの写真立てが落ちているのを見つけた。
(そうか、落ちたのはこれだったのね…)
拾い上げたフレーム奥の写真は、少々変色していた。
埃を指先で払ってみる。
すると、そこに映っていたのはサーフボードを片手に友人と肩を組んで笑う、剥き出しの鋭利な印象を感じさせる青年だった。
しかし、一緒に映っている友人らしき彼の顔の部分だけが、赤黒く変色してしまっている。
(おそらくこのどちらかが、ここの前の住人なんだろうな…)
ふと唐突に興味が湧いた天音は、自分と大して歳も変わらないようにみえる先住者に、このとき無性に会ってみたくなった。
あらかた埃を吐き清め、散らばっている硝子片を集めて処分する。
そして、最後にもう落下してしまわないように、窓際の机の真ん中に写真立てを伏せた。
「よしよし、ここならもう落ちたりしないよね」
居間に戻るため照明を落とそうとした瞬間、ぶつりと蛍光灯の明かりが消え、触れてもいない入口の扉が勝手に閉まった。
「は…!?」
全身から血の気が引いて、身体の底から一気に不快感が込み上げると同時に、天音はあっという間に青褪めた。
【 心 霊 現 象 】
脳裡をゆっくりと貫通した言葉〈ワード〉は、別の意味合いで震える天音の蟀谷にぷっくりと青筋を浮かび上がらせる。
そうだ、そういえば。
ここの一室だけ、やけに安かったのだ。
安価で入居できるメリットばかりに目がくらんでいて、何故一室だけが安いのかというそもそもの『理由』をすっかり見落としていたことを今更になって思い出した天音は、己の失態による強力なアッパー・カットを食らってよろめいた。
先にも述べたとおり、天音は幽霊の類いが嫌いだ。
否、というよりも完全に憎悪していると言った方が正しいかもしれない。
つまりは、そういうことである。
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