第1話 蒼き幽魂

9/11
前へ
/11ページ
次へ
【いや、流石にそんくらいは覚えてるさ。名は影崎 彗(かげさき けい)、歳は24だ】 「へぇ、年上なんだ」 ふんふんと頷いていた天音だったが、唐突に投擲された彗の流し目に、背筋を粟立たせる。 「な、なによその眼は…」 【お前の名前、まだ聞いてねぇんだけど?】 「……天音。藤咲、天音よ」 【ふうん、歳は?】 さりげなくナンパしてきた彗に、天音は慌てて後じさった。 なんたる不遜。 結局、コイツはただのチャラ男霊に過ぎないのだ。 その、無駄にいいルックスで取り入り憑依する魂胆なんだろう。 【ひでぇ言われようだなぁ。てゆーか、取り憑かねぇから。そこは安心しろ】 「ひ、人の心を読むなーーーーっ!」 【っるせぇ~…近所迷惑だろうが。ま、そこは幽霊ってことで見逃してくれや】 口笛を吹きつつ漂う彗を背後に、 「うそっ、もう夜中の0時過ぎてる!! いつの間に…」 天音の目は放置気味だった携帯電話の時刻表示に食い入った。 存外に長居していたらしく、携帯の液晶ディスプレイの表示は、既に翌日を示していたのだ。 少なくとも、まだ4時間程度しか経っていないと思っていたのに――意外である。 「ちょっ…なにしてんのよっ」 ふいに背に乗っかられる気配を感じ、天音は嫌嫌と左右に肩を揺すった。 【あああ眠い。こうすっと、なんか落ち着くんだよなー……くっついてたいなー……】 “取り憑く気がない”なんて言う戯言は、今の処の確証がない訳で、信憑性にも欠ける。 しかも、彼自ら決定的な墓穴を掘っている。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加