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【いや、流石にそんくらいは覚えてるさ。名は影崎 彗(かげさき けい)、歳は24だ】
「へぇ、年上なんだ」
ふんふんと頷いていた天音だったが、唐突に投擲された彗の流し目に、背筋を粟立たせる。
「な、なによその眼は…」
【お前の名前、まだ聞いてねぇんだけど?】
「……天音。藤咲、天音よ」
【ふうん、歳は?】
さりげなくナンパしてきた彗に、天音は慌てて後じさった。
なんたる不遜。
結局、コイツはただのチャラ男霊に過ぎないのだ。
その、無駄にいいルックスで取り入り憑依する魂胆なんだろう。
【ひでぇ言われようだなぁ。てゆーか、取り憑かねぇから。そこは安心しろ】
「ひ、人の心を読むなーーーーっ!」
【っるせぇ~…近所迷惑だろうが。ま、そこは幽霊ってことで見逃してくれや】
口笛を吹きつつ漂う彗を背後に、
「うそっ、もう夜中の0時過ぎてる!! いつの間に…」
天音の目は放置気味だった携帯電話の時刻表示に食い入った。
存外に長居していたらしく、携帯の液晶ディスプレイの表示は、既に翌日を示していたのだ。
少なくとも、まだ4時間程度しか経っていないと思っていたのに――意外である。
「ちょっ…なにしてんのよっ」
ふいに背に乗っかられる気配を感じ、天音は嫌嫌と左右に肩を揺すった。
【あああ眠い。こうすっと、なんか落ち着くんだよなー……くっついてたいなー……】
“取り憑く気がない”なんて言う戯言は、今の処の確証がない訳で、信憑性にも欠ける。
しかも、彼自ら決定的な墓穴を掘っている。
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