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2本目のビールを空けた頃、会話は和馬と会った、あの雨の夜の話になっていた。
「翔太は女を抱きながら、別の女を想ったことある?」
「ないない。俺そんな器用なこと無理だわ」
「だよね…。和馬に彼女を抱きながら、綾子の顔を思い浮かべるって言われてから、その意味をずっと考えてたんだ」
「その意味?」
「もし、それが本当にできるなら、彼女に対して一番の裏切りだよね」
「まぁな、自分の好きな相手に抱かれながら、相手は他の女を抱いてるつもりでいるんだから…彼女からしてみたら最高級の屈辱だな」
翔太は座椅子にもたれ、苦笑いをした。
「だからね、昨日ずっと思ってた。『梨花さんと私を重ねてもいいからずっと私を想ってて』って」
私は手に持つ缶ビールに視線を落とす。
「普通は他の女と自分を重ねられるの嫌じゃないのか?」
「だって、和馬の中で私が消えない方法ってそれしかないじゃん。私、堂々と彼女でいられる梨花さんが羨ましい…憎らしい。だから、何も知らない彼女を、心のどこかで嘲笑ってるの。ざまみろって思ってるんだ。私」
「…女って恐いな」
翔太が眉を寄せ、ため息混じりに笑みを作った。
「うん…でもね…、実際は私が梨花さんと重ねられてたら…って思えてきて…恐くなった」
…本当の気持ちは和馬にしか分からない。
心が裏切られてるのは...どっち?
「彼女が帰ってくる前日に、綾子と会う時間作ってくれたんだから、綾子を手放したくないと思ってる気持ちは本当だと思うぞ。『私が一番なのよ!』って胸張ってれば。…って言っても威張れるもんじゃないか」
伏せた目を上げると、翔太が私に優しく微笑んでいた。
彼の柔らかい笑みに心がほどかれ、私も小さく笑った。
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