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翌日、私は昼には支度を済ませ、和馬からのメールを待っていた。
『うん!いい感じ』
アイカラーはこの秋の新色、ピンクとブラウンでグラデーション。
華のある大人っぽさを演出しようとオペラレッドのルージュが唇を彩った。
そして胸もとにレースの入った黒のワンピース。
ほのかに香るフレグランスは通称『幸せを呼ぶ香水』と言われるフルーティーフローラルの香り、ベビードール。
ベージュのマニキュアを塗り、乾くのを待つために手のひらを机に置いた。
暫くすると、待ちわびていた和馬からのメール着信音が鳴り響く。
乾いたばかりの爪が触れないように、そっと携帯のボタンを押した。
【梨花、今帰った。すぐにこっち来れるか?】
【うん、今すぐに行けるよ!】
はしゃぐ気持ちを抑えられず、文字が声となり即返信。
【分かった。待ってる】
私はメイクのチェックをして部屋を飛び出した。
まだ夏の気配が残る青空を見上げ、スカートの裾をヒラリと風に揺らし、駐車場へ駆けて行く。
...今日は梨花さんの事には触れないでおこう。
今日は、ただ和馬の側で笑っていたい。
心を燻る不安を掻き消し、短く息を吐くとミュールの踵を鳴らし和馬の部屋へと向かった。
ドアの前に立ちチャイムを一回鳴らすと、鍵の解かれる音が聞こえた。
そして、いつもの様に自分で扉を開けた。
『和馬』愛しい彼の名を呼ぼうとした瞬間、喉まで上がった言葉は消え去り、私の笑顔は一瞬のうちに氷ついた。
目の前の光景に、ただ呆然と立ちすくむ。
私のすぐ目の前には…和馬の立っているはずの廊下には、見知らぬ女性が立っていた。
シャンプーのCMに出演してそうな長いストレートの髪…二重の綺麗な瞳…大きめの口…モデル並の長身とスタイル。
えっ…梨花......さん?
私の目の前には…あの日焼けしたショートカットの活発なイメージとはかけ離れた、誰が見ても美しいと思うだろう女性が立っていた。
驚愕し、言葉も出ず顔を強張らせる私を、彼女はじっと見つめている。
腕を組み、首を傾げて、彼女はククッと鼻で笑い…
「はじめまして。ずっと貴女を待ってたのよ」
あの電話から流れた彼女の声が静かに廊下に響き渡った。
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