416人が本棚に入れています
本棚に追加
突然に襲う恐怖心で震えていた足が一歩後退りをした。
目頭が熱くなり心臓がバクバクと不快な音を叩き鳴らす。
「……分かった…」
彼はぽつりと言うと…振り返り怯える私を見つめた。
「…え……?かず…ま?」
思いがけない和馬の言葉に茫然と立ち竦む。
「綾子…すまない。今日で終わりにしよう…別れてくれ…」
彼はそう告げると目を伏せ深々と頭を下げた。
......えっ?......
信じがたい言葉を耳にし、私は彼を凝視する。
「…待ってよ…なに…それ…」
これって…本当に…
現実?
和馬の声が遠ざかり…彼が頭を下げる姿が静止して見える。
嘘…そんなはずない…だって…俺を信じろって…言ってくれたのに…。
茫然と立ち竦む体は力を失い、後退りした背中が扉にぶつかった。
「綾子…ごめん…帰ってくれ」
涙で霞んで見える愛しい彼は…再び別れを請うために私に頭を下げていた…。
これで……何もかも終わりなの?
扉にもたれた体はゆっくりと力無く滑り落ちる。
和馬は裸足で玄関に下りると、黙って私の腕を引き上げた。
「そんな...どうして.....」
彼の顔を見上げると、頬を伝った涙がポロポロと床に流れ落ちた。
「綾子さん、あなたは自分の存在を消したつもりかも知れないけど…浮気の証拠は物だけじゃないのよ。この部屋…あなたの存在が至る所に残ってる。その部屋に迎えられ、彼と過ごした私の気持ち、あなたには分からないでしょうね?」
彼女は唇を噛み私を見下ろし睨み付ける。
「…綾子…帰れ…」
和馬は耳もとで小さく呟くと扉の鍵を静かに開けた。
最初のコメントを投稿しよう!