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突然に襲う恐怖心で震えていた足が一歩後退りをした。 目頭が熱くなり心臓がバクバクと不快な音を叩き鳴らす。 「……分かった…」 彼はぽつりと言うと…振り返り怯える私を見つめた。 「…え……?かず…ま?」 思いがけない和馬の言葉に茫然と立ち竦む。 「綾子…すまない。今日で終わりにしよう…別れてくれ…」 彼はそう告げると目を伏せ深々と頭を下げた。 ......えっ?...... 信じがたい言葉を耳にし、私は彼を凝視する。 「…待ってよ…なに…それ…」 これって…本当に… 現実? 和馬の声が遠ざかり…彼が頭を下げる姿が静止して見える。 嘘…そんなはずない…だって…俺を信じろって…言ってくれたのに…。 茫然と立ち竦む体は力を失い、後退りした背中が扉にぶつかった。 「綾子…ごめん…帰ってくれ」 涙で霞んで見える愛しい彼は…再び別れを請うために私に頭を下げていた…。 これで……何もかも終わりなの? 扉にもたれた体はゆっくりと力無く滑り落ちる。 和馬は裸足で玄関に下りると、黙って私の腕を引き上げた。 「そんな...どうして.....」 彼の顔を見上げると、頬を伝った涙がポロポロと床に流れ落ちた。 「綾子さん、あなたは自分の存在を消したつもりかも知れないけど…浮気の証拠は物だけじゃないのよ。この部屋…あなたの存在が至る所に残ってる。その部屋に迎えられ、彼と過ごした私の気持ち、あなたには分からないでしょうね?」 彼女は唇を噛み私を見下ろし睨み付ける。 「…綾子…帰れ…」 和馬は耳もとで小さく呟くと扉の鍵を静かに開けた。
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