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「ちょっと、待ちなさいよ!まだその女に言いたい事があるのにっ!」
和馬が扉を開け私の背中を押した瞬間、彼女は声を荒げて私達に走り寄った。
突然、左腕を引っ張られ手首に痛みが走り顔をしかめた。
和馬に背中を押されながら掴まれた腕へ視線を向ける。
「あなた…和馬と同じ病院で働くナース?」
彼女の鋭い視線から流れ込む憎悪の念と、手首に食い込む痛みで体が凍りつく。
「二度と和馬に関わらないで。次は絶対に許さないから!」
「梨花、手を離せ…」
和馬は私を捕える彼女の手首を掴んだ。
手を掴まれた彼女は、私に向けていた鋭い視線を和馬に向ける。
私を捕える彼女の力がさらに強くなり、指の先に痺れる痛みが走った。
「和馬…次は絶対に許さない。もう、あなたの浮気に付き合ってる時間はないの。来年の春には結納、秋には挙式なんだから」
えっ…
春に…結納……秋に…挙式?
彼女の言葉に愕然とし和馬を見上げた。
「…その話はいい。とにかく手を離せ」
和馬は私の視線を避けると、彼女の手を私から引き離した。
「和馬…どう言うこと?」
私は涙を溜めた目で彼を見上げる。
「…その話しはまた今度話す。とにかく今日は帰った方がいい」
彼は小声で呟くと、再び扉を開けて茫然とする私をそのまま外へと押し出した。
突然後ろ向きに押された私の足は縺れよろめく。
その拍子に肩に掛けていたバッグが腕から勢いよく滑り落ちた。
「また今度って何?また今度ってなによ!」
扉の隙間から、彼女の憤慨した怒鳴り声が聞こえた。
そして、その言葉を最後まで聞き取ることなく、扉は閉じられた。
押し出された私は茫然自失でただ扉を見つめるしかなかった。
私達…どうなったの?
今まで目の前で起こっていた事…梨花さんが言った言葉…和馬の言葉……
一体何が起こったの?
全ての状況が掴めず頭の中が真っ白になった。
ゴトンっ!
突然、扉が叩かれる様な音が聞こえ恐怖心で体が強張る。
早くここから離れなきゃ!
梨花さんが出てくるかも知れない!
床に投げ出されたバッグを拾い、ドクドクと流れる煩い拍動を感じながらエレベーターまで必死に走った。
そして、車に乗り込むと震える手でステアリングを握り、車を走らせた。
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