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夜中から降りだした雨は、シトシトと冷たく降り続いていた。
私は空の紙袋を詰めた鞄を抱え寮の玄関へと下りる。
黒く淀んだ空を見上げため息を落とすと、傘をさし駐車場へと歩き出した。
私は和馬の部屋に向かうためステアリングを握る。
和馬の部屋へ…
浮気の証拠を消すために。
明日、ついに梨花さんが帰って来る。
あの部屋に…和馬のもとに…。
半年前まで和馬の存在しか感じられなかった部屋は、いつの間にか私の気配が入り込んでいた。
洗面室の鏡の前に置かれた化粧品やコンタクトレンズの洗浄液。ヘアスプレーなどの私物を一つずつ紙袋に入れていく。
そして、浴室に入り排水溝の白い蓋を開けた。
網目に絡み付く数本の長い髪の毛。
私は排水溝の前で腰を屈め、茶色い髪の毛を一本一本指で摘み上げた。
普段、掃除で髪を拾い上げるのとは違う。
言いようの無い虚しさが込み上げる。
自分が持ち込んだ雑誌、和馬の服に紛れてずっとクローゼットに掛けてあった洋服、ヘアピン、指輪…、私が料理する為に用意した調味料やキッチングッズ。
和馬が使うはずのない物を次々と袋に詰め込んだ。
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