9月7日

2/8
前へ
/23ページ
次へ
夜中から降りだした雨は、シトシトと冷たく降り続いていた。 私は空の紙袋を詰めた鞄を抱え寮の玄関へと下りる。 黒く淀んだ空を見上げため息を落とすと、傘をさし駐車場へと歩き出した。 私は和馬の部屋に向かうためステアリングを握る。 和馬の部屋へ… 浮気の証拠を消すために。 明日、ついに梨花さんが帰って来る。 あの部屋に…和馬のもとに…。 半年前まで和馬の存在しか感じられなかった部屋は、いつの間にか私の気配が入り込んでいた。 洗面室の鏡の前に置かれた化粧品やコンタクトレンズの洗浄液。ヘアスプレーなどの私物を一つずつ紙袋に入れていく。 そして、浴室に入り排水溝の白い蓋を開けた。 網目に絡み付く数本の長い髪の毛。 私は排水溝の前で腰を屈め、茶色い髪の毛を一本一本指で摘み上げた。 普段、掃除で髪を拾い上げるのとは違う。 言いようの無い虚しさが込み上げる。 自分が持ち込んだ雑誌、和馬の服に紛れてずっとクローゼットに掛けてあった洋服、ヘアピン、指輪…、私が料理する為に用意した調味料やキッチングッズ。 和馬が使うはずのない物を次々と袋に詰め込んだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加