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寮生用の駐車場とテニスコートの横を通り過ぎると、急な坂に差し掛かった。
北口駐車場のある坂の上から雨が水流となり足元に激しく流れ落ちてくる。
つま先から伝わる冷たい雨と息苦しさを消し去るように、私は和馬に会える喜びに満たされ坂を登りきった。
「ごめん、遅くなって…20分は過ぎたね」
荒い息使いで和馬に微笑む。
「ごくろうさん。思ったより早かったじゃん」
「早かったって、ずっと走って来たんだからね!」
「急いだ分、会える時間が増えたんだから良かっただろ?」
微かに触れた和馬の指で耳が熱くなる。
隣で微笑む彼の顔を見上げた。
「シーツは変えておいたから…」
「悪いな…嫌なことさせちゃって」
和馬は申し訳なさそうに言うと私の頭に乗せた手を引こうとする。
「証拠隠滅は徹底的にやらなきゃね。女の勘って恐いから」
和馬は私の存在の消えた部屋を見て何を感じるのだろう…。
彼を引き止めたくて、離れてしまうのが恐くて…涙を堪え必死に笑顔を作った。
「大丈夫。俺達は何も変わらない。俺の気持ちは変わらないから…だから泣くな」
和馬は一度引いた手を伸ばし、優しく私の頬に触れた。
聴こえたの?
…私の心の声が…。
頬に触れる指先から伝わる彼の熱が、雨に濡れ冷えた私の体を温め広がっていく。
「私の知らない和馬をいっぱい知ってる梨花さんが恐い」
触れる和馬の手の上に自分の手をそっと重ねた。
「…綾子だって梨花の知らない俺を知ってるよ」
「…梨花さんが側にいたら、きっと私を必要としなくなる…」
今まで口にできなかった言葉が、涙と共に溢れ出た。
「俺の気持ちを勝手に決めるな!俺が綾子を必要としてるんだからそれでいいだろ?」
和馬は私の涙を指でなぞり真っ直ぐに私を見つめた。
「本当にズルイね…和馬って。私から別れを言い出せないこと分かってて言うんでしょ…」
「綾子…俺はおまえが好きだ。この気持ちに嘘はない。自分を信じろ…俺を信じろよ」
目を伏せる私の髪を撫でると、そのまま私を引き寄せた。
不意をつかれ上げた視線は和馬の瞳に吸い込まれる。
薄暗がりの車内には雨音だけが響いている。
私たちは体を寄せ合い何度も深い口づけを交わした。
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