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僕は町をさ迷い、妹の干からびた唇に種を入れてやる 「オニイチャン。ダイスキ」 種を入れてあげれば裏返る事はないのだ。妹の体は詰め込まれた「牡丹」がどんどんと育って、徐々に人の形から離れていった 「オニイチャン。オニイィィィチャァァァン。キフフフ」  らーらーらー    るーるーるー 「ダダィスキキキフフフオニイィィィチャァァァン」 もう、善意の炊き出しもかっぱらってきた食べ物も食べなくなった妹の口に、僕は種を入れ続ける 「牡丹」がいる限り、妹は生き続ける事が出来るのだ! 蔓のように部屋いっぱいに伸びてねじれた手足と、成長して天井近くまで伸びた首 もう一緒に散歩に行く事も出来ないけれど、妹の居ない世界なんて想像したくなかった 僕はあまり成長した妹を見ないようにして、妹の為に町をさ迷い続けた  らーらーらー 「オニイィィィヒヒッチャァァァンフフフ」 鈴の鳴るように可愛かった妹の声は、いつの間にか風が通る時のような音になっていた   るーるーるー 終焉は呆気なく訪れた
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