ぼ、た、ん

　隣の住人とは、
　時折顔を合わせる事が在る。

　穏やかで人当たりの良い、好青年と言った風貌の人で、異性にちやほやされるのも頷けるが、

　そんな人が、

　何か深刻な悩みでも在ったのだろうか？

　と、気掛かりなのだが、

　人間、誰にでも悩みは在る。

　然し、

　壁をガリガリ削る程の病的な悩みともなれば、余程、性急な悩みなのかも知れない。

　私も長年連れ添った恋人と、此迄に無い酷い喧嘩をし、破局した時は、随分部屋の中を滅茶苦茶にしたものだが……。

　私としては、

　隣の住人の事は気になるが、

　同時に、その時聞いた、

　“ぼたん”

　と、言う声が、何なのかも気になる。

　なので、顔を合わせた時は、其の人の悩みを聞きたくも在り、

　「ぼたん」

　についても聞きたかった。

　けれど、幾ら近所とは言え、唐突に悩みを聞き出すとも、厚かましく、私は、聞くに聞き出せぬ儘、

　一人、悶々としていた。