ぼ、た、ん

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 躯中に鳥肌が立って来たので、  耳を壁から離してみる。  壁をガリガリ削る音や、ぼたんの呟きは少しは小さく感じられると多可を括って居たが、  壁から離れても、穿つ音や謎の呟きは、鼓膜にこびりついた様にしつこく付き纏う。  私は滔々厭になり、  「何なの? 止めて頂戴!」  壁に向かって叫んだ。  すると、  此迄執拗に付き纏っていた壁の音や、呟く声は、水を打った様にピタリと止んだ。  私は、もう、良い加減、壁を削る音や、奇妙な声の事を忘れ普段の日常生活を取り戻そうと、  テレビを付けた。  暫くぼんやりテレビを眺めてはいたものの、ふと、「ぼたんて何だろう」頭の中に疑問が過ぎって来た。  忘れ様としたが、すればする程、疑問の反芻が益々強くなる……。  私は滔々、再び、壁に耳を当てた。  何も聞こえない。  此で良かったんだ。  安堵の溜息をついたその時。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加