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「あ、ここで降ろしてくれていいよ」
「…綾子、元気出せよ。まだ連絡来ないと決まった訳じゃないし…」
「ん…ありがと。もう、諦めかけてるけどね」
笑顔を作り軽く言葉を返すと、笑顔で手を振りドアを閉めた。
ゲートの左側に立ち並ぶ木々達が、サワサワと冷たい夜風に揺られ小さな音を奏でる。
『連絡が来ないと決まった訳じゃない…か』
月明かりに照らされ、秋の色づきを見せる木々の葉。
私は夜風を吸い込み大きく深呼吸をした。
寮まで続く坂の途中で振り返ると、翔太の車はまだ、同じ位置に停まっていた。
私は外灯に照らされる翔太の車にもう一度手を振り、残りの坂を再び登り始めた。
寮の正面玄関に着いたと同時に、後ろで車のライトが動くのを感じた。
車は私の真後ろで止まり、私はふと後ろを振り返った。
「か…ずま…」
開けた口を閉じることなく、茫然と立ち竦む私。
運転席の窓がゆっくり下りた。
「綾子、久しぶりだな」
そこには、以前と変わらない笑み
を浮かべる和馬がいた。
「…和馬…どうしてこんな所に…」
「綾子を待ってた。出掛けてたんだな」
「…うん、ちょっと友達とご飯を食べに…」
言葉を発する唇が震える。突然の彼の登場に驚きが隠せない。
バクバクと打ち付ける心臓の音を抑える様に、バッグを胸に強く抱え込んだ。
「そうか、さっき部屋に内線使って電話したら留守だったから、そこで待ってた」
和馬は私の心境を見抜いているのか、私の強張る表情を見ると小さく笑った。
「え?内線?何で?携帯にかけてくれればいいのに…」
「前の携帯が分からなくてね。…全部消された。と言うか、使ってた携帯を壊された」
そう言うと、和馬は私が見たことのない携帯電話を見せ苦笑いを見せた。
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