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暑い。
空調が切れているのだろう。次第に室温が上がってきている。
私はネクタイを緩めると、周囲に視線を巡らせた。
皆、一様に上着を脱いだり腕捲りをしたりと、私同様、暑さを感じている事が分かる。
私の対角線上に立っている、体脂肪が気になるだろう体型の男性などは、額は汗ばみ、脇には汗染みが出来ている。
その隣では、女性が座り込んでいた。大きく迫り出したお腹が重いのだろう。妊婦にはこの状況は、かなり辛い筈だ。
それから年配のご婦人。落ち着いた色合いのスーツを着て、ジャケットを脱ぐ気配はないが、しきりにハンカチで汗を拭いている。
私の隣には、ずっと爪を噛んでそわそわしている、神経質そうな青年。
そして……
「オッサン! アンタくせえんだよ!!」
私が、この窓も何もない、閉塞された空間を共有しているメンバーの観察をしていると、突然怒号が上がった。彼らを何処かで見た事があるような気がしていたのだが、その怒号に、探ろうとしていた記憶は散らされてしまう。
声の主は、例の汗かきの男性の、妊婦とは反対側に立っていた、柄の悪そうな若い男だ。
このエレベーターに彼が乗ってきた時、一瞬嫌な空気が流れたのを覚えている。皆、因縁を付けられないように、距離を開け目を反らしていた。
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