一週間(Ⅰ)

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記憶が戻れば一緒だ。 遅かれ早かれ瑞希もここに来るだろうし、どのみち去らざるを得なくなる。 それがたった今か、明日かもしれない“いつか”だってだけで、結末は決まっているんだ。 それなら……。 ――少しでも長く春子のそばにいたい。 ただそれだけで、決心は脆くも打ち砕かれた。 俺の有給は、あと1週間。 瑞希が出張から戻るのもその辺だろう。 俺は、この綱渡りのように危うい誤解につきあうことにした。 1週間というリミットを設けて。 どす黒くて、醜い、それでいて胸の柔らかいところを痛いほど握るような、悲しい本音が俺をそうさせた。 1週間経ったら……、もしくは春子の記憶が戻ったら、ちゃんときれいにいなくなるから。 だから……。 もう少しだけ。 もう少しだけ……。  
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