因果応報

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「でね、どうしたらいいと思う?」 「……」 折角相談したのに返ってくる声が無い。 「もうっ! 先生ってば!」 詩織が急かすようにそういうと、呆れるようなため息が降ってきた。 「別に何してたっていいだろ? ほっといてやれよ」 「だって、気になるもの!」 「じゃあ、本人に聞け」 「答えを聞いても、素直に信じれそうに無いから困ってるんじゃない」 小さな声でそういうと「――ったく」と、また呆れるように声を落とされた。 「別に車の免許でも、なんでもやらせてやれ。人間、息抜きが必要なんだよ」 その台詞は彬自身のことを言ってるようで。 「先生も、家が好きじゃないの?」 そう聞くと彬は少し困ったように笑う。 「元々、育った家じゃねぇしな。気が休まるか? と聞かれれば答えはNOだ」 「……」 そして返ってくる答えに、今度は恭のことを言われてるようで詩織はしゅんと俯いてしまった。 「ある意味、尊敬するな。毎日同じ笑顔を湛えてお前の傍にいるアイツを。  お前のことを好きなら、尚更――」 「えっ?」 驚く詩織に「違うのか?」と聞く彬。 多分、好きでいてくれてるはず。 だけど自信がどこにもない。だって今の恭は完全に『兄』だから。 否定もせずだた俯くだけの詩織に、彬はやっぱり呆れるように笑う。 「なら、アイツが言うまで待ってやれよ」 待つ。 そんな選択肢があるなんて。でも、 「……言って、くれるかな?」 一度は言ってくれたけど、もう一度言ってくれる時が来るんだろうか? 心配そうにそう呟くと、 「いつかはな」 そう言って、詩織の目の前にチョコレートの包みを差し出した。 「今日はこれ食ったら帰れ。気分もよくなる」 「こんなのに誤魔化されるほど子供じゃないもん」 「なら、大人なところを見せてみろ」 「……」 詩織はムッとしながらも、そのチョコを口に頬張って、 「失礼しましたっ!」 と、彬の部屋を出て行った。 「俺に相談してんじゃねぇよ」 なんて、彬の声を聞くことなく。
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