第13話

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その日の夜、恭が『大河内家』に帰ってくることは無く、かわりに訪れたのは桂木。 「すまない! 私が彼のカルテを管理してなかったがゆえに――」 「いえ、勝手に見た恭も悪い。それに見たところで恭にすべてが分かったとは」 思えない。 見るものが見れば分かるだろう。 だが、彼は高校生。 レントゲンもCT写真の意味もわかるはずが無い。 なのに、桂木は軽く首を振る。 「いや、分かったかもしれん。詳細までは無理だとしても――」 彼の「病名」は。 「パパッ、恭は?!」 バンッとリビングの扉を開けるなり、叫んだのはパジャマ姿の詩織。 けれど、その答えを持っているものは誰も居らず、鈴花だけが「お嬢様……」と声を漏らした。 「なんでもないから」と言ったところでこんな状況は初めてで、詩織も納得するはずもない。 だから、政成は詩織にすべてを話すことにした。 「……ガン?」 詩織の口からこぼれたのは最悪の病名。 けれど桂木は頷きながらも朗らかな笑みを湛える。 「だが、ほんの初期ですぐに治療を始めれば確実に治る。心配することはない」 それが自分の病気なら彼の言葉で安心できるだろう。 けれど、その病気なのは恭。 しかも、恭がどこに行ったのか――。 「携帯のGPSは!? あれってそのためのものなんでしょう?」 父親にそう訴える詩織に、父親は小さく首を振る。 「電源が切られてるんだろう」 そうなるとGPSもなんの役にも立たない。 電源が切られているのは詩織も知っていた。 誰よりも先に彼に電話をしたのは詩織だから。 そして、留守電にいくつもメッセージを残したのに返事もない。 「恭、どこ行ったの?」 今にも泣いてしまいそうになりながら、そう口にする詩織を父親は静かに抱きしめた。
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