好奇心とピンチ

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 あのイベントの日、虹原岳と2人で話したということを何となくゆりに話せないまま、何日か過ぎていった。  ベタリと不快にまとわりつく空気は、そろそろ訪れる夏直前の風物詩──梅雨のせいだ。  耳のあたりからうなじにかけて髪の毛がはり付いてくるような気がして、何度も撫でるようにして後ろに流す。  高校生の帰宅ラッシュに巻き込まれないうちに電車に乗れたことにホッとしながら、バッグの中から文庫本を出した。  虹原岳の本だ。  あれから反省の意もこめて、1冊くらいは読んでおこう……と、ゆりの勧めるままイベントの帰りに適当に買った。  読んでみて、思ったことは。  ──虹原岳本人は苦手だけど、彼の書くものは好き。  まだ視野の狭い中学生や高校生の頃なら、絶対に読まないところだけど。  彼に不快な思いをさせてしまったことや、自分の軽率な行動や迂闊な判断力に対しての自戒も含めて、というところだろうか。  そうして読んでみたところで、あの日のことがなかったことになるわけじゃないけど。 .
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