好奇心とピンチ

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 それ以上虹原岳の瞳を見つめるのがいたたまれなくて、そっと顔を背けようとした。けれど、今髪を触っていた手がそれを止める。  ぺち……と、彼の手のひらが肌に軽く触れる音がした。 「何聞いてたんだよ。言ってやったろ。可愛いって」 「その前に、ガキって言いました」 「根に持つところは、可愛くないな」  笑いながら言ったくせに、虹原岳はふと真顔になる。その視線の先には確かにあたしがいた。  頬を包む彼の手に顔を固定されて、それを確かめさせられる。 「一応、言うけど。酒のせいにすんなよ」 「……し、ませ……」  虹原岳はゆっくりとあたしの身体を抱き寄せ、そのまま顔を傾ける。  さっきの事故のようなのとは、全然違う。あたし達の周りの空気が一気に温度と密度を上げたのが判ってしまうくらい。  送ってくれるという親切な彼を、誘ったつもりはない。  そんなことしたことないし、できやしない。  でも何故か、この人のことをもっと知りたいと思った。  この人が小説家だからか、なんなのか。  言葉に、声に──ひどく色気がある、と思った。男の人にそんなふうに思ったのは、初めてだ。 .
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