秘密の色

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 ……鎖骨のきれいなひとだなあ。  思った瞬間、目尻から涙がこぼれた。  ふうと息をついて、虹原さんはあたしの顔を覗き込んだ。  色恋沙汰を楽しむものだと言ってのけた彼は、手のうちをあっさりあたしに晒すだけあって、妙な説得力でまたこの状況に持ってきた。  まったく、信じられない。  付き合おうとか、そんなこと一言だって口にしてはいないのに。  でも、仕草で、声で、目で判る。  些細なことから、ひとつずつあたしの築き上げたものを崩していこうとするような、虹原さんの意思が。  誰にも崩されない自信があるとか、そんな固い何かを築き上げてたわけじゃないけど。  でも、少なくと自分の中にもそれなりに決まりごとがあったのだと、気付かされた。  よく、「失ってからその大切さが判る」──なんて聞くけど。 .
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