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その声に急に現実に引き戻されて、ギクッとした。
「……ゆり……」
いつも通り、朗らかで明るい様子のゆり。彼女の顔を見た途端、胸の中に暗雲が立ち込めた。
……だって。
「あ! 岳ちゃんだ! いいともに出てる!」
更にギクッとして、ゆりが釘付けになっている方を見てしまった。
ゆりはあたしを追い越してテレビがよく見える席にささっとつき、手招きしてくる。
曖昧に頷きながらそれに続き、テレビの画面を見た。
……確かに虹原岳だ。
今日はサングラスみたいに色のついた眼鏡をしていて、目元はよく判らない。
淳成社で見た時思ったように、すっきりと伸ばされた背筋が彼の長身を引き立てている。
堂々とスタジオの中央に立って、自分の本を掲げてにっこり笑っていた。
思わぬタイミングで虹原岳を見ることができたせいか、ゆりのテンションが上がっている。
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