秘密の色

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 淳成社で彼と2人で話したことをゆりに言えなかったのは、このせいだ。  初めて生で虹原岳を見たゆりは、「好きになっちゃいそう……」と熱っぽい瞳をウルウルさせながらずっと溜め息をついていた。  もったいぶったわけじゃない。羨ましがられるのが判っていたから。  けど、今日はその日とは比べ物にならないくらいに気が重い──虹原岳を好きだというゆりの隣にいることが。  ハッキリ言って、ゆりの「好きになっちゃいそう」をそのまま恋だと思ってるわけじゃない。ゆりだってそうだろうとは思う。  だけど、ちょっと熱を帯びたファン心理であるなら、何となくそっちの方が怖い気がしてしまう。  ──あたしの携帯に、虹原岳のアドレスが入ってる、なんて言えるわけがない……。  土曜日のことがまた甦ってきて、あたしは思わず小さく震えた。 .
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