ひたひたと、忍び寄る。

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 ましてや、岳さんは小説家だ。  あたしみたいな、とりあえず不自由なく育った人間じゃ思いもつかないことを考えていたり言ったり──それを目の当たりにしたことは一度や二度ではなくて。  起きている時間を可能な限りそういうことに費やしている人に勝てるとは思わないけど、少しでも追いつきたい……。  ぼんやりと感じていたことを今はっきりと自覚して、あたしは俯く。  だって、感じてたのに自分でそれを判ってなかった。判っていなければ、成長しようもない。  すると、岳さんはほどけるように眉尻を下げ、肩を竦めて笑った。 「悪い、ガキ扱いしたわけじゃないから」 「じゃあ、なに……?」  岳さんは少し困ったような顔をして、椅子にもたれる。体重がかかった分、キシ……と音がした。 .
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