ひたひたと、忍び寄る。

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 春に作品が映画化されたことから、あれよあれよという間にあちこちに引っ張りだこになってしまっている彼を、よくテレビや雑誌で見る──というのは、知り合う前から変わっていないんだけど。  あたしがそれを意識していたのは最初だけで、あとはその、何て言うか……自分の彼氏としか思ってない、っていうか……。  もちろん、彼が忙しいことは承知しているし、会っている時急に銀ちゃんから連絡が入ってデートがそのまま打ち合わせになってしまう、なんてこともたまにはある。  でも、だからって岳さんの何が変わるわけでもない。  むしろ彼の仕事ぶりを近くで見る機会が増えた分だけ、生半可な努力で小説家を名乗っているわけではないということを知るばかりだ。  岳さんの抱えている、地味で気が遠くなるような仕事は全部、彼の地道な努力の結晶のようなものだ。 .
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