他人はよく見ている。

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 ズキン……と心臓の裏側が重く疼く。その存在をちょっと思い出すだけで、これだ。  あまりの重症っぷりに、自分で自分を哀れんでしまいたくなる。 「失恋って……どうしてなのか訊いたら、駄目?」 「駄目、っていうか……まだ生々しいんですけど」 「生々しい。大いに結構ね」  ニコリ、と織部さんは面白そうに微笑んだ。  表現を生業にするような人間は、どこかしら怖いところとか悪いところとか、あるいは壊れたところとか、そういう部分があると思う。  けど、この織部さんという女性編集者を見ていると、少しだけ思う。  編集者っていうのも、ちょっと人でなしなところがあるんではないか──と。 .
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