他人はよく見ている。

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 なんだっけ。何年か前に見た映画の中にもそういうのがあっただろう。  書けなくなった作家に、そいつ好みの美人の人妻を引き合わせた編集者が出てくる映画。  つくづくモラルと背中合わせの商売なのか、と思う。まあ、今さらなんだけど。 「虹原さんの中のそういう鬱屈した葛藤、もう少し出てきてもいい気がするんだけど。どうもあなたの作品はストイックすぎるというか、何というか」 「はいはい……色気がないってことですか」 「そうじゃなくて。あなたは、もっと読者さんに責められるような作品が書ける人だと思うから」 「は? 何で俺が? 読者さんに?」  発言の意味が判らずにポカンとしていると、織部さんはその整った顔からふと笑みを引っ込めた。 .
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