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すると、穏やかに俺を見つめる織部さんと目が合った。
「……苦しんでるんでしょう? 今」
「……」
ふいに核心を突かれ、言葉を失った。
驚くことはない。彼女にはこの間失恋したばかりだと自分の口で言ったのだから。けれど、そうじゃない。
言ったとか言ってないとか、そういう浅い次元の話じゃないんだ。
ガシガシと前髪をかき上げて、やんわりと織部さんの視線から逃れる。実際彼女はまだこちらを真っすぐに見つめているんだから、逃れられるわけがない。
が、腹の底まで届きそうな、彼女の心眼。それに相対するだけの気力を、今の俺は持っていなかった。
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