何も知らなかった。

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 何となく。  あたしの目線がその人に吸い寄せられたのは、本当に何となくだったんだけど──。  でも、必然のような気もした。  電車に揺られて十数分。目的の駅に降り立って、ビジネス街を歩く。  前から探していた本のことをぼんやりと思い出して、ネットで探してみたら行ける距離の本屋さんに在庫があることが判った。  何てことはない、中学生の頃好きで読んでいた女性作家さんの恋愛エッセイなんだけど。  今、こんな時に……と自分でも思う。でもすぐに、こんな時だからこそ誰かの恋愛論を読んでみたかったのかも知れない、とも思った。  頭で考えるより先に、携帯とお財布を持って家を出ていたから。 .
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