何も知らなかった。

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   ビルとビルの谷間に吹くのはほとんど突風だ。時々息ができなくなるくらいの風が吹き抜けていく。  それでもシュワシュワと劈(つんざ)くような声を上げる蝉達は、この道を涼しく彩る気などさらさらないようだ。  額からジワッと滲んでくる汗を手の甲で拭いながら、ほとんど熱風となってしまっているこの猛威に耐えながら歩く。  ビジネス街とかほとんど来たことがないけど、地図を確認してきたから何となく道は判る。  やがて、すぐに本屋さんを見つけた。  涼やかな色使いの看板に少しホッとしながら信号を渡ってお店に足を踏み入れると、ヒンヤリとしていた。 「いらっしゃいませ」  入り口の脇にレジがあり、そこから穏やかな女の人の声が聞こえた。 .
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