夢のままでは続かない。

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   複雑な気分で、まだ火を付けていない煙草を咥えながら1階のカフェを覗いた。  ついてきた華緒梨には、ここで待っていてもらうことにしていたのだ。  すると、奥の窓際の席で、華緒梨は文庫本を開いておとなしく待っていた。出る時女性の店員に彼女を見ていてくれ、と頼んだおかげか何ごともなかったようだ。  ……出版社は、色んな人間が出入りするもんだからな。  さっきの女性の店員が、俺を見てクスッと笑った。  それを会釈で素通りし、俺がやってきたことに気付かない華緒梨のいるテーブルに向かう。  近くに来ても本に熱中して全然気付かないので、声色を変えて声をかけてやった。 「オネエサン、俺とお茶しない?」 「へっ?」  びっくりして顔を上げた華緒梨は、俺の顔を見て「なぁんだ」と笑った。 .
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