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「……いえ」
「……素人の持ち込みじゃないんだから、判るでしょう。こういうのはあなたのことをよく知ってる馴染みの担当さんのところに持って行った方が……」
少し言いにくそうにしながら、織部さんは手元の紙束をチラッと見る。
──先日決まった企画とは別の、プロットも何もすっとばして書き出した原稿だった。
今日約束していた、既に決まっている企画の一章はちゃんと書き上げてさっき提出したところだ。忙しい筈の織部さんはそれをこの場でさっと読んでしまい、「期待通り」と上機嫌で褒めてくれた。
そこに、「あの……」と追加で差し出した原稿。しかも完成したものではなく、あちこちまだ埋めるべきエピソードも歯抜けだらけ。中途半端もいいところだ。
何の前振りもなく差し出されたその原稿を見て、織部さんが眉をひそめるのも無理はなかった。
彼女が抱えているのは、俺だけではない。もちろん、夫である織部克行だけでもない。
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