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こいつの存在に気付いたのは、俺の方だ。今さら立って逃げ出すことも躊躇われて、両肘をついてその場で頭を抱えた。
こんなやつを置き去りにしたら、今度は何を書かれるか判らない、ということもあるんだけど……。
ここまで語られて、こいつが何を見聞きしたかを確かめずに帰るなんて、そんなこととてもじゃないができない。
「……それで?」
「え?」
「それで、何なんだよ。まだ俺に何か用があるのか」
「あ、そうだ。サインもらえません?」
ヘラッと笑った綾瀬のスポーツキャップを握って、その頭をスパンと叩いてやった。
「いてっ」
「バカじゃないの。何なんだよ」
「すみません、そうじゃなくてですね」
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