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隙あらば好きだ、と何度もささやいてしまいたくなるこの衝動はそれでも天邪鬼で、いざ声に出そうとすると途端にするん、とまた身体の中に引っ込んでしまう。
女は言葉の方が判りやすい、と言うだろうが、どうにもそれを叶えてやれない。
好きなら好きな程、言葉を引き戻す力が強くなる。
せっかくこうして触れているんだから、言葉じゃない言葉で伝えればいいんだ──という、どこか後ろ暗い欲望の存在もあるにはあるが。
手を伸ばして、行き場をなくした華緒梨の手のひらを包む。
すると安心したように握り返してきて──この仕草が、可愛くて堪らない。
口唇であちこちをなぞりながら、頭がぼうっとしてくるのを感じた。
華緒梨の潤んだ瞳を見下ろしながら、俺はもう何も考えずに彼女に溶けたくて、その衝動に素直に従った。
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