猛禽類の瞳。

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   指定されたホテルにたどり着き、すうっと深呼吸をした。  途端にいい香りが鼻腔をくすぐり、つくづくいいところだな……と思わず小さくむせる。  華緒梨の了承を得て、神保さん経由で彼女の兄に渡りをつけてもらった。  本来なら自分の足で出向くべきところなのだが、あれから鳶島夫妻に話を聞くと、華緒梨の兄──鷹羽聖夜──は夜、あちこちをうろついて仕事をしている為、居所が定まらないという。  アポを取っても駄目なのかと訊くと、彼の携帯に直接連絡をつけられない間柄の人間では難しいだろう、と言われた。  それでも、自分が頼めば何とかなるのではないだろうか……と鳶島雛が言ってくれたが、あえて断った。  鷹羽聖夜は、神保さんを通じて俺にアプローチしてきたんだ。  神保さんから連絡してもらった方がいいに決まっている。  華緒梨と三者で、というのが世間の筋なのだろうが、鷹羽聖夜が彼女を介さなかったことから、今の段階でそれはしない、という意味なのだろう。  俺の読みが、当たっていればいいが。  ふうと溜め息をついて、指定されたフロアのラウンジを見渡した。神保さんも、鷹羽聖夜らしき男もいないようだ。  ざわざわと、心地よいBGMと軽いざわめきが溶けるような空間。  うっかりするとここで眠り込んでしまうのではないかと思うようなやわらかいソファーは、俺の身体をそっと受け止めた。  ……プライベートじゃ、絶対こんなところには来ない。  執筆する時にはホテルでカンヅメになる人間もいるらしいが、そんなのは一部の売れっ子中の売れっ子とか、ベテランミリオンセラー作家くらいだろうと思う。  銀二が俺にこういうホテルを紹介してくれるとも思えない。せいぜいビジネスホテルが関の山じゃないだろうか。 .
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