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「去年、映画化が決まった時、貰ったんだ」
「誰に?」
「映画監督」
「そうなの?」
俺は名刺を華緒梨の手に返し、その時のことを思い出して肩を竦める。
「挨拶させてもらった時、俺、手ぶらでさ。そしたら監督が“俺達には娯楽みたいなもんだが、売る人間にはビジネスだ。体裁くらい持っておきなさい”って。1週間くらいして撮影現場の見学に行った時、100枚入りのこの名刺、黙って俺の手に握らせてくれたんだ」
「……へえ……」
「それまで、挨拶の時に名刺がないなんて何とも思わなかったんだけどさ。俺、会社員じゃねーし、とか優越感抱えてたくらい」
名刺をじっと見つめながら、華緒梨は興味深げに頷いた。
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