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「けど、なんか去年の俺、どっか浮かれてて。映画にはなるし、そのおかげで全部増刷されたし、みたいな。価値も判んないのに、よく判らないのにまで配ってさ。気付いたら手元にそれしか残ってなかった」
「……」
今の俺の話に何かを感じたのか、華緒梨が不安げに眉根を寄せた。
「その話したら、神保さんにえらく怒られて。“お前、それを普通に使える身分になれってことだろ!”っって」
「どういうこと?」
「明らか、重役が出すようなデザインだろ。20代の新人作家が得意げに誰構わず配るような名刺じゃない、ってこと」
「……あ、そっか……」
すると華緒梨は名刺を持ったままリビングに戻り、ソファーに腰を下ろした。
髪を掻き分けながらその後をついていくと、華緒梨はバッグの中から何かを出して俺に見せる。
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