301人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「これ、せー兄ちゃんの名刺。仕事で何かある度、デザイン変えてて……」
「へえ?」
華緒梨は俺と自分との間に、聖夜さんの歴代のものだという名刺を並べた。
一番古いと思しき名刺は何の変哲もない、白地に黒の明朝で名前が印刷された、安い名刺だった。
左下に、申し訳程度の店のロゴは入っている。
でも、それだけだ。飾りなんて何もない。でも、そこに聖夜さんのこだわりが見える気がした。
たぶん、その都度身の丈に合うようなものを選んできたんだろう。出来た男だ……。
「……調子こいて、聖夜さんに渡さなくてよかった」
「ふふ。でも、すごいよね。“12月の空蝉”の監督って、何度か海外の映画祭にも招待されてる人じゃない」
「ヴェネツィア国際映画祭とかじゃないから、って本人は笑ってたけどな」
「かっこいいね。偉い人が押し付けがましくなく謙虚なのって」
「……ん。ああいう大人になれたらカッコいいな」
.
最初のコメントを投稿しよう!