対、世間。

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  「これ、せー兄ちゃんの名刺。仕事で何かある度、デザイン変えてて……」 「へえ?」  華緒梨は俺と自分との間に、聖夜さんの歴代のものだという名刺を並べた。  一番古いと思しき名刺は何の変哲もない、白地に黒の明朝で名前が印刷された、安い名刺だった。  左下に、申し訳程度の店のロゴは入っている。  でも、それだけだ。飾りなんて何もない。でも、そこに聖夜さんのこだわりが見える気がした。  たぶん、その都度身の丈に合うようなものを選んできたんだろう。出来た男だ……。 「……調子こいて、聖夜さんに渡さなくてよかった」 「ふふ。でも、すごいよね。“12月の空蝉”の監督って、何度か海外の映画祭にも招待されてる人じゃない」 「ヴェネツィア国際映画祭とかじゃないから、って本人は笑ってたけどな」 「かっこいいね。偉い人が押し付けがましくなく謙虚なのって」 「……ん。ああいう大人になれたらカッコいいな」 .
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