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「そう、だけど……」
答えつつ、あたしは岳さんを見上げて携帯を指し示しながら首を横に振る。
すると岳さんはしょうがないな、というように肩を竦め、手を差し出した。
「代わるよ」
『うん、早くして』
まるで子どもみたいなお父さんの口調にげんなりしつつ、岳さんに携帯を渡した。
「あ、要さん。先日はどうも、ご馳走になりました。……ああ、本当ですか。ありがとうございます」
岳さんはもうすっかり慣れた様子で受け答えを始める。“要さん”呼びはお父さんが強制したものだ。
すごいなー、と思いながらあたしは岳さんがお父さんと話すのをじっと見つめていた。
お父さんに岳さんを会わせた時──お父さんは土下座をして、彼にあることを言い放った。
「大ファンなので、サイン下さい」──と。
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