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季節の風景はもう街中にどこからか金木犀が香るものになっていて、冷たい風が足元を吹き抜けていく中、やわらかい陽射しが小春日和を演出していた。
そんな爽やかな空気にいい気分になっていると、ムスッとしてパーカーのフードを目深に被っている岳さんと遭遇した。
「どうしたの?」
あたしがいつもこの門から出て駅に向かうことを予め知っている岳さんは、そこに立っていたのだ。
「ボケッと立ってたら、どっかの馬鹿が“虹原岳だ!”とか騒ぎ出すから……」
「また? それで機嫌悪いの? フード被るほど?」
コクン、と岳さんは無言で頷いた。子どもみたいだ。
ここであたしを待っていたら、3回に1回は気付かれるって判ってるのに、なんでわざわざ来るの──。
その問いの答えは、訊かなくても判ってる。
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