Epilogue

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   他人同士が親しくして、深く付き合っていくってことは。  お互いのそれまでの人生を持ち寄る、ってことなのかも知れない。  あたしは、そういうこと、できてるだろうか。  あたしの中に岳さんの部分ができてる、っていうのはついこの間自覚したことだけど。  それでもよく考えてみれば、お父さんを亡くしている……っていうこと以外、彼の生い立ちのことをよく知らない。  知っても知らなくても、岳さんへの気持ちや接し方の何が変わるわけじゃないけど。  岳さんは優しい人だけど、書くことに関しては非情な部分もあるんだな……ってことも、何となく判るけど。  何だろう。  意識せずに、お互いの自覚していないものが混ざり合うような。  そんなふうになっていけたらな……と思う。  考えてたらちょっと心もとなくなって、カップを握ったままそっと岳さんの仕事部屋を覗いた。  岳さんはいつも、集中して書く時にはヘッドフォンをして外界をシャットアウトしている。  だから、あたしがそっとドアを開けたくらいじゃ気付かないんだけど。  岳さんはディスプレイに向かいながら、椅子に完全に身体を預けて天井を仰いでいた。  その瞳は閉じられていて、でも指先は聴いているもののリズムを取るようにトントンと動いている。  集中して、何かを考えている時の岳さんだ。  邪魔はしたくないから構って欲しいなんて気持ちはないけど、たまにこうして仕事中の岳さんを見るのがあたしの趣味みたいなものになりつつある。 .
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