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「なんだって……?」
「今、巷ではそんな噂が流れているのではないですか?」
歩は記憶を探る。確かそんな噂、耳にしたことがあったような……。でもそんなの、ただの噂だし、おもしろ半分で広まってる感はあるし……。
と、男はそこで歩の思考を遮るかのように言った。
「火のないところに煙は立たない――いくら不審死が多発しているとはいえ、普通の人間ではそれを『時間停止』には繋げられないでしょう。わたくしはあなた以外にも数人、お誘いをしています。どうです、おわかりいただけましたか?」
「――いや、いやいやいやいや、信じるかよ。なによりあんたの言葉には矛盾がある。連続殺人だっていうなら、時間停止が一回だけしかできないってのはおかしいだろ」
「いえ、連続殺人は別段、犯人が一人でなくとも成立いたします。これは世の中に出回る数々の推理小説が証明しております。複数人が同じ方法で殺人を行うことで、同一犯と勘違いしてしまう、と。しかし殺人――それは人の禁忌。時間を止められるという誘惑が、人々の手を引いているのかもしれません」
それから――と続ける。
「あなたの言葉質をとるようで申し訳ないのですが、あなたもおっしゃったではありませんか、時間を止めてみたいとお思いになった理由で、『何をしてもばれない』から――と」
うっ……、と言葉に詰まった。どうにもこの男には勝てない。これ以上反論しても恥をかくだけだ。それをはっきりと理解した歩は男の言うことに耳を傾けることにした。
「再度言いますが、あなたが望むのであれば一度だけ時間を止められる力をあなたに授けましょう」
「……あんた一体、何者だ?」
「わたくしは、何者でもない者であります」
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