2人が本棚に入れています
本棚に追加
いつまでもそうしているわけにもいかないのでスイッチから指を離した。自分の『台本』が今朝のままそこにはあることにふと気づく。自然、それへの視線が忌ま忌ましさを孕む。寝室の方向からは怒鳴るような声とおろおろした弱い声が入り交じって聞えた。漫画の中の校長と教頭ってこんな感じだよな、と、場違いにもそう思った。
やがて喧噪が収まると、地響きのような音を立てて父がツバメに向かってきた。
ツバメは一歩も引き下がらない。
どころか前に一歩踏み出し、何かを言おうと口を開いたとき――ずしりと鈍い感覚が自分の頬に押し寄せた。
何が起こったのか理解も出来ず、痛覚も感じず、次の瞬間の尻餅の痛みが先に来た。それからようやく頬の痛みを知る。――そうか、殴られたのか。
振り抜かれたその腕は紛れもなく父のものであり、ツバメは生まれて初めて父に殴られた。
「何時だと思っているんだ!」
怒号は響く。
鷹夫の後を追うように、鶴江と、鷹夫の声で目が覚めたのであろうツグミがやってきた。二人はツバメをかばおうとはしない。鷹夫が怖いのか、ツバメに非があると思っているのか、それとも『台本』に「ツバメを助ける」と書いていないからなのか――。
「……何時に帰ろうが、俺の勝手だろ」
言い訳のようなものを吐きつつ立ち上がる。ツバメと鷹夫の目の高さは同じようなものだった。どうして俺はこんなにも敵意を露わにして睨んでいるのか、そう思ったのはツバメなのか鷹夫なのか。
「……ああ、勝手だな」
ツバメの『台本』を取り、持ち主に投げつける。そして鷹夫は続ける。
「俺は勝手を許さないと言っているんだ!」
最初のコメントを投稿しよう!