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その様を目前で見ていたツグミは「ひっ」としゃくる声を上げて肩を小さくしていた。
早く嵐が去って……! 心の中でそう念じた。
しかしそれで現実が変わると勘違いするほどに幼くはない。
なんでこんなに『平和』じゃないんだろう。どうしてうちの家庭はこんなに荒れるんだろう。
ツグミは毎朝そう思う。だから早々に学校に行きたかった。
学校に行けば、お父さんの怒った声も聞かないで済むんだもん。
「ツグミ!」その怒った声は自分の名を呼んだ。
「ひゃ、ひゃい!」舌も回らない。それでも返事だけは確かにした。
「お前はツバメのようになるなよ……。これはお前たちのためを思ってしていることなんだ。だから、ちゃんと――」
「う、うん……」
頷いた。
『ちゃんと』ってなんだろう、そう思いつつ。
ちらりと時計をうかがう。そして、兄がつい数分前に渡されたものと同じような幾枚の紙を鞄から取り出して見る。
――よし。ツグミは立ち上がった。
「あっ、行くね、お父さん。ほら、時間だから……」
と時計を指さす。『ちゃんと』学校に行く時間になっていた。
ほっと胸をなで下ろす。これで学校に行ける。
「ツグミ、『台本』は持ったか……?」うかがうように問う父に、
「うん、持ってる」と例の紙を見せる。
「行ってきます」
ツグミはなるべく明るい声を作って家を出た。
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