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ツバメが『台本』通りに動こうとしないことは前々からではあったが、それでもいつも門限(便宜的にそう表現するが、厳密に言えばこの家には門限が存在しない。なぜなら、『台本』通り、過不足なくその時間に帰ってくることが当然とされているため)は守っていた。
ツバメが門限に帰って来ないなんてことは今回が初めてであった。鷹夫が動揺する所以はそこにある。
それでも――と、ツグミは思う。
私たちって、寄り道さえも許してもらえないんだね……。
はう、と嘆息した。ツグミはもう一度ファッション誌に視線を落とし、耳にはイヤホン、雑音をシャットアウトする。
その横で母の鶴江はしどろもどろとしていた。額には汗、受話器を手に持ちつつ弱々しい声で鷹夫に告げる。
「鷹夫さん、ツバメに電話を掛けたんですが……」
「どうだった!」
食い入るように訊く鷹夫に首を振る。
「電話には、出なくて……」
「くぅうっ……!」
ついには両手で頭を抱え、鶴江からは何も声を掛けられなくなった。『電源が切れているか電波の届かない所に――』女性のアナウンスだけが平静であった。
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