第2話

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しかし、番組営業の売上は5年前に首都テレビを追い越し、徐々に差を広げて きている。 この事実が、 「俺たちは視聴率が悪いのに、ここまで実績を上げている。編成や制作は何やってんだ!」 という広告局の強烈な自負となり、社内で強い影響力を持つに至ったのである。 人事力でもそれは遺憾なく発揮され、番組営業の班長経験者は、おしなべて どの部署よりも早く出世し、他部署へ異動したり、系列へ出向したとしても 相応の身分が与えれれている。 「広告一家」 と言われる所以である。 しかし、社内的には全く人気はない。番組営業やるくらいなら死んだほうが マシ、とおおっぴらに言われており、実際、内示がでてそのまま退社してしまう ものもこれまで数名いた。 ・・・スポンサー行ったら金取ってくるまで死んでも帰ってくるな! 土下座、泣き落とし、どんな手でも使え! ・・・番組が売れない奴は人間ではない。ギブアップは許されない。 ・・・先輩の言うことには逆らうな。「飲め」!「はい!」「脱げ!」「はい!」 体育会系を通り越して、軍隊、ヤクザの世界そのものだからである。 また、社員たちが、もっとも毛嫌いしているのが、他テレビ局にはない、 伝統的な 「番組完遂制度」 である。これはつまり、いついつの放送は誰と誰が必ず売る、売らないと、 30秒真っ白な放送になる、といういわゆるノルマ制度で、通称 「必殺枠」 と言われている。必ず売ることから来ているのだが、売らないと殺される、と だんだん大袈裟な解釈がなされ、今では他局にも「必殺枠」の関東放送で名が 通っている。 部会を進行する統括の前岡担当部長は、それこそ若い頃、ヤクザまがいの 脅迫で広告代理店に枠を押し付けたり、企業の宣伝部長のスキャンダルを握る など、売上のためなら まさに 「なんでもやる」 昔ながらの営業マンであった。視聴率低迷期を支えた功労者とも言える。
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