第2話

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第2話 広川に手招きされた玲子は、心中の強い決意は微塵にも顔に出さず、若干おどおどした表情で、部屋へと足を踏み入れた。 「お邪魔します」 広川はワインを注ぎながら、 「まずは、乾杯しよう。それから打ち合わせね。」 グラスがぶつかる音が、部屋に響き、一杯口を軽くつけたところで、玲子は、内ポケットに手を入れ、ボイスレコーダーのスイッチを入れた。 「でさ、明日の台北中央テレビのことだけどさ、キーマンは徐っていう執行役員なんだって。 で、その人は明治大学に2年留学経験があって、そこでアキバのアイドルにかなりはまったらしい。 だから、今回の売り込みはドラマ3本だけど、この深夜番組の 「アキバアイドル一直線」 も興味示してくると思うんだ。 時間なくて、正式英文書類出せなかったけど、この簡単な一枚飛行機の中で書い たんだけど、これ明日までに訳せるかな?」 ・・・意外だった。 玲子は、のっけから誘ってくると思い込んでいたので、拍子抜けしたまま、答えた。 「ああ、はい。この程度なら10分でできます。」 「ああ、そう。ありがとう。あとはトークで補わないといけないから、 これから訳合せさせて。 ポイントは、台灣にも、アキバみたいな「聖地」作ったり、 そこからアイドルが発掘される文化を醸成させることなんだ。 要は、単なる番組販売にとどまらず、 フォーマット販売、ゆくゆくは文化の輸出にもつなげていきたいんだ。」 フォーマット販売とは、番組の「企画・コンセプト」を海外に売ること。 つまり、日本の番組を現地にあった形で、リメイクする、ということで、 広く世界的に行われている。 日本に輸入された逆バージョンでは、 「ラストアンサー?」で有名な アメリカの「クイズ・ミリオンダラー」が知られている。 その後、広川は、熱くアイドルを、日本のテレビ局を語り、 訳のニュアンスを事細かく、確認していった。 多少のジョークを交えながら、まさに明日のリハーサルをしているようだった。 玲子は自分が、台湾のテレビ局員なら、すぐ買いそうだな、と思うくらい 熱いプレゼン内容であった。 「じゃあ、れいちゃん、打ち合わせはこれくらいにしとこうか。その紙も書いてもらわなければいけないし。」
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