第1話 綺麗なもの

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僕には美しいと思えるものがなかった。美しいという形容詞が何に使われるかは知っている。花とか、青空とか、容姿の整った女性とか。 だが、その美しいという基準は何によって定められるのだろう。 とか、科学者のように自分の考えをつらつら並べる気はない。 分かっているのは、僕は人が綺麗だと思うものを綺麗と思えず、人が汚いと思うものは汚いと認識しているということ。 世の中には極めて希だが、人が汚いと思うものを綺麗だと判断する人もいる。だが、一方の僕は『綺麗』『美しい』と思うものがないというかなり希少な人種だろう。 そんな僕が生まれて初めて綺麗だと思うものに出会った。 それは、人だった。 僕と変わらない年の女性だった。 真っ先に目を引いたのは彼女の姿だ。真っ白なワンピースに真っ白なミュールを履き、髪さえもが真っ白だというのに空を見上げるその瞳だけが、夜を思わせる黒だった。彼女はブランコとシーソー、砂場にジャングルジムに鉄棒という至って普通の公園のベンチに座っていた。木陰になっているその場所は彼女の白さを更に際立たせていた。 美しいものを見ると吸い込まれるように見入ってしまう。
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